津軽・黒石は、幕末まで近隣で最大の醸造高を誇った酒どころ。その伝統をいまに伝える鳴海醸造店は、地元では「菊乃井」の名で知られる老舗の造り酒屋。創業は文化三年(1806年)。藩政時代の伝統建築群がいまも残る中心街の一角にあり、蔵元である鳴海家の家屋そのものが市の有形文化財に指定されています。 南八甲田の伏流水から湧き出た敷地内の井戸水、周辺の豊かな田園から厳選された酒米、そして創業二百年以上の伝統の技によって生まれる味わいは、まろやかさの中にキレのある逸品ぞろい。これまで地元と限られた通人だけに知られていた「菊乃井」を本サイト限定商品を含めてご紹介しています。 |
「まず水はこだわっていますね。南八甲田の雪解け水から何百年という歳月をかけて湧き出た井戸水だけを使っていること。これは非常にやわらかい癖のないピュアな水といえるでしょうね。米は、華吹雪という品種を使っていますが、やはり地元産にこだわっています。酵母も"まほろば華"など、県のオリジナル酵母を中心に用いています。この伝統はこれまで以上に大切にしなければと考えているわけですが、味の好みが多様化し、よりグレードの高いお酒を求めるお客様もいらっしゃいます。私のイメージする、新しい時代にふさわしい、より上級な製品も追求して、新しい銘柄を発表してきました。 |
青森県の鑑評会の審査員も勤める鳴海信宏社長 |
それらは従来より、さらに芳醇で、しかもキレのあるお酒です。はじめの頃は父である社長の説得に苦労し、ときに杜氏の反発を買いながら…(笑)。他に先駆けて古代米での酒造り、無農薬米を使用しての純米酒の開発など次々に新製品を発売。ここに来て新しい銘柄も人気ブランドとしてようやく定着してきました。しかしながら、わずか年間300石の小さな、文字通り手造りの酒屋です。それぞれの出荷数も限られており、心から日本酒が好きな方に、津軽の味わいを愛でるように味わっていただきたいですね」 株式会社鳴海醸造店 代表取締役社長 鳴海信宏 |
鳴海醸造へ一歩入ると、そこはショップ&試飲コーナー |
鳴海醸造店は、観光スポットとして、日本の道百選にも選ばれ、江戸の面影を色濃く残す周辺の伝統的建造物とともに、見学のできる造り酒屋としても人気。そのしっとりと落ち着いた佇まいは、確かな伝統と酒造りへの真摯な思いを静かに語りかけているようです。 取材:コピーライター 柴田正大 |
こみせ」と呼ばれるアーケードや建物に江戸の情緒と風格 |